第6話サメを渡ったウサギの、余計なひと言因幡の白うさぎ
第6話。海に並んだワニ(サメ)の背を数えて渡った兎は、陸を目前にした一言で毛皮を失う。兄たちのウソの治し方に苦しむ兎を救ったのは、最後尾で荷物を背負う末っ子オオナムヂ。袖に残る黄色い粉と白い毛に気づいた姫が選んだのは――。
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最後まで読んでくれてありがとう!
第6話。海に並んだワニ(サメ)の背を数えて渡った兎は、陸を目前にした一言で毛皮を失う。兄たちのウソの治し方に苦しむ兎を救ったのは、最後尾で荷物を背負う末っ子オオナムヂ。袖に残る黄色い粉と白い毛に気づいた姫が選んだのは――。
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この話のもとになった神話
この話は『古事記』(712年成立、太安万侶がまとめた歴史書)の上巻、大国主神(おおくにぬしのかみ)の物語の始まりにあたります。大国主神にはいくつもの名前があり、この場面では大穴牟遅神(おおなむぢのかみ)と呼ばれます。彼には八十神(やそがみ)という大勢の兄弟がいましたが、のちに兄弟たちはみな国を彼にゆずることになります。白うさぎの話は、そうなったわけを語る最初のエピソードとして置かれています。
八十神は、稲羽(いなば)に住む八上比売(やかみひめ)と結婚したいと思い、そろって稲羽へ向かいました。大穴牟遅は袋を背負わされ、お供として連れていかれます。気多之前(けたのさき)という岬に着くと、毛皮のない兎が倒れていました。八十神は兎に「海の塩水を浴びて、風の当たる高い山の上で寝ていればいい」と教えます。言われたとおりにすると、塩が乾くにつれて皮が裂け、兎は痛みに泣き伏してしまいました。
一行の最後にやって来た大穴牟遅がわけを聞くと、兎はこう話します。淤岐嶋(おきのしま)からこちらへ渡りたかったが方法がなく、海の和邇(わに)に「どちらの一族が多いか比べよう。みんなで岬まで並べば、背中を踏んで数えてあげる」と持ちかけ、だまして渡ってきた。ところが陸に下りる直前に「おまえたちはだまされたんだ」と言ったため、いちばん端の和邇につかまり、毛皮をすっかりはがされた。そのうえ八十神の教えで、さらに体を傷めてしまった――と。
大穴牟遅は「すぐに水門(みなと)へ行って水で体を洗い、そこに生える蒲黄(がまのはな)を敷いて、その上を転がりなさい」と教えます。兎がそのとおりにすると、体は元どおりになりました。兎は「八十神は姫を得られません。袋を背負っていても、姫を得るのはあなたです」と告げます。そして八上比売は八十神に「あなたたちの言葉は聞きません。大穴牟遅神のもとへ嫁ぎます」と答えました。怒った八十神は大穴牟遅を殺そうとたくらみ、物語は次の試練へと続きます。
原文の「素菟」の「素」は、「白い」の意味とする読み方と、「毛のない、はだかの」の意味とする読み方があり、解釈が分かれています。兎の毛の色や性別、話し方は原典に書かれていません。
「和邇」については、山陰地方の言葉でサメをワニと呼ぶことから「サメのこと」とする説が有名ですが、爬虫類のワニとする説もあります。原典は和邇の姿を描いていないので、どちらとも決められません。また、水門を河口、そこで洗う水を真水とする読み方や、蒲黄をガマの花粉(昔の傷薬)とする説も広く知られていますが、原文にそこまでの説明はありません。
大国主神は、須佐之男命(すさのおのみこと)の六代あとの子孫にあたり、のちに出雲を中心とする国づくりを進める神です。この話では、荷物持ちとして最後尾を歩く大穴牟遅だけが、苦しむ兎に声をかけ、効く手当ての方法を知っていました。見下されていた者が、やさしさと知恵によって選ばれていく――のちに国の主となる神の資格を示す話として読むことができます。
古事記は兎について「今は菟神という」と記していて、兎は神としてまつられる存在になります。気多之前を鳥取県の白兎海岸あたり、淤岐嶋を隠岐諸島とする言い伝えがありますが、これは後の時代の考え方で、淤岐嶋を近くの小島とする説もあります。なお、袋を背負った大国主を大黒様と重ねるイメージは、中世以降の神仏習合や唱歌によるもので、古事記そのものにはありません。
漫画では、和邇を「鰐のような海の獣」として描いています。古事記ではのちの豊玉毘売(とよたまびめ)の正体も同じ「和邇」と書かれるため、シリーズを通して姿をそろえています。和邇の数や大きさ、言葉を話す様子は漫画の演出です。
兎が「だまされたな」と言ってしまった気持ち、八十神がウソの治し方を教えた理由や態度も、原典には書かれていないので漫画で描き加えました。大穴牟遅を「末っ子」とするのは広く知られた考え方ですが、原典は兄弟とだけ書いています。また、姫が袖に残る黄色い粉と白い毛に気づく場面は漫画オリジナルです。原典では大穴牟遅は治し方を教えるだけで、兎が自分で手当てをし、姫については答えの言葉だけが記されています。
Manga Portalの『古事記 ―神々の系譜―』第6話では、ワニの背を跳ねて渡る兎の緊張感や、最後尾を黙々と歩くオオナムヂのまなざしを、絵で味わうことができます。全話無料・会員登録なしで読めるので、あらすじを知ったうえで、気になった場面をぜひ漫画でたしかめてみてください。次の話では、怒った八十神がオオナムヂに襲いかかります。
ワニ(和邇)をだまして海を渡った兎が、最後のひと言で毛皮をはがされる話です。兎は八十神のウソの治し方でさらに苦しみますが、大穴牟遅(のちの大国主神)に助けられます。兎の予言どおり、八上比売は大穴牟遅を選びます。
大国主神です。この場面では大穴牟遅神(おおなむぢのかみ)という名前で登場し、兄たちの荷物を背負ったお供として描かれています。
山陰地方の言葉でサメをワニと呼ぶことから、サメとする説がよく知られています。ただし爬虫類のワニとする説もあり、古事記は和邇の姿を書いていません。
大穴牟遅に教わり、水門(河口とされる)の水で体を洗い、蒲黄(がまのはな)を敷いた上を転がって元に戻りました。蒲黄はガマの花粉で、昔から傷薬とされたという説が一般的です。
古事記では気多之前(けたのさき)と淤岐嶋(おきのしま)が舞台です。鳥取県の白兎海岸付近と隠岐諸島とする言い伝えがありますが、淤岐嶋を近くの小島とする説もあります。