第2話「見ないで」と言われたのにイザナギとイザナミ・黄泉の国
火の神を産んで死んだ妻イザナミを取り戻しに、夫イザナギは死者の国へ下る。「見ないで」というたった一つの約束を破った夫と、見られた妻。二人は大岩を挟んで生と死の数を言い交わして別れ、禊の水から太陽・月・嵐の子どもたちが生まれる。
ほかの言語で読む:English
最後まで読んでくれてありがとう!
火の神を産んで死んだ妻イザナミを取り戻しに、夫イザナギは死者の国へ下る。「見ないで」というたった一つの約束を破った夫と、見られた妻。二人は大岩を挟んで生と死の数を言い交わして別れ、禊の水から太陽・月・嵐の子どもたちが生まれる。
ほかの言語で読む:English
最後まで読んでくれてありがとう!
この話のもとになった神話
国生みで日本の島々を生んだイザナギ(古事記では伊耶那岐命)とイザナミ(伊耶那美命)は、その後も多くの神々を生みました。ところが、最後に火の神ヒノカグツチを産んだとき、イザナミは体を焼かれて病気になり、やがて亡くなってしまいます。病気の間にも、イザナミの体から鉱山や土、水の神々が生まれたと書かれています。
イザナギは「愛しい妻を、子ども一人と引き換えにしてしまった」と嘆き、亡骸のまわりを這い回って泣きました。その涙からも神が生まれます。イザナミを出雲と伯伎(今の鳥取県西部)の境にある比婆山に葬ったあと、イザナギは剣でカグツチの首を斬りました。ただし、なぜ斬ったのか、そのときの気持ちは古事記には書かれていません。
イザナギは妻に会うため、死者の国である黄泉の国へ向かいます。「二人の国づくりはまだ終わっていない。帰ってきてほしい」と頼むと、イザナミは「もう黄泉の国のかまどで煮た物を食べてしまった。でも帰りたいので、黄泉の神と相談してくる。その間、私を見ないで」と答えました。けれども待ちきれなくなったイザナギは、櫛の歯に火をともして中をのぞいてしまいます。そこにいたのは、蛆がたかり、体の八か所に雷の神が宿った妻の姿でした。
おそろしくなって逃げ出したイザナギを、「恥をかかされた」と怒ったイザナミは、黄泉の醜女(ヨモツシコメ)に追わせます。イザナギが髪飾りを投げると山ぶどうが、櫛の歯を投げると筍が生え、醜女がそれを食べている間に逃げました。次に八柱の雷神と千五百の黄泉の軍勢が追ってきますが、黄泉比良坂のふもとに生えていた桃の実三つで撃ち退けます。イザナギはこの桃に名前を与え、地上の人々が苦しむときも助けるよう頼みました。
最後にイザナミ本人が追ってくると、イザナギは千人で引くほどの大岩で坂をふさぎ、岩をはさんで別れを告げます。イザナミが「あなたの国の人を一日に千人絞め殺す」と言うと、イザナギは「それなら一日に千五百の産屋を建てよう」と返しました。こうして、毎日千人が死に、千五百人が生まれるようになったと古事記は語っています。
けがれた国に行ったと考えたイザナギは、竺紫(つくし)の日向で水に入り、身を清めます。これを禊(みそぎ)といいます。このときも多くの神が生まれ、最後に左目から天照大御神、右目から月読命、鼻から須佐之男命が生まれました。大いに喜んだイザナギは、三柱にそれぞれ高天原、夜の国、海原を治めるよう命じます。
この話は、「なぜ人は死ぬのか」「それでも人が増え続けるのはなぜか」を説明する物語として読まれています。死の始まりと、それを上回る誕生を、夫婦の別れの言葉として語っているのが特徴です。
また、死をけがれと考え、水で清めるという考え方がここに表れているとされ、神社のお祓いなどにつながる考えだという説もあります。桃に魔よけの力があるという考えは中国にもあり、その影響を指摘する説もあります。「見てはいけない」という約束を破る話や、死者の国の食べ物を口にすると戻れなくなる話は、ギリシャ神話など世界の各地にも似た例があることが知られています。
漫画は古事記の流れに沿っていますが、読みやすくするための工夫をしています。古事記では生まれた神々の名前が長く続きますが、漫画ではその多くを省いたり、背景として描いたりしています。
古事記には、神々の顔や服装、黄泉の国の景色、醜女や雷神の姿などはほとんど書かれていません。こうした部分は漫画の絵と演出による創作です。イザナギがカグツチを斬ったときの気持ちや、黄泉の国でどれくらい待ったのかも原典にはないため、漫画で描かれる心の動きは作者の解釈として楽しんでください。また、三貴子を「太陽・月・嵐の子」と呼ぶのは名前や後の物語にもとづくわかりやすい言い方で、この場面の古事記にそのまま書かれているわけではありません。
第2話「『見ないで』と言われたのに」は、たった一つの約束をめぐる夫婦の物語として、この神話を描いています。文章だけではイメージしにくい黄泉の国からの逃走や、大岩をはさんだ別れの場面も、漫画なら一気に読めます。「古事記 ―神々の系譜―」はManga Portalで全話無料、会員登録なしで読めるので、気になった方は第1話から順番にのぞいてみてください。
古事記で、日本の島々や多くの神々を生んだ夫婦の神です。イザナミが火の神を産んで亡くなったあと、イザナギは黄泉の国まで妻を迎えに行きますが、二人は黄泉比良坂で別れることになります。
火の神ヒノカグツチを産んだとき、体を焼かれて病気になったためです。古事記では、病気の間にもイザナミの体から神々が生まれたと書かれています。
イザナミは、黄泉の国のかまどで煮た物を食べる「黄泉戸喫(よもつへぐい)」をしてしまっていました。それでも帰りたいと黄泉の神に相談しようとしましたが、その間にイザナギが「見ないで」という約束を破ったため、二人は別れることになります。
古事記には、黄泉比良坂は出雲国の伊賦夜坂(いふやざか)だと書かれています。イザナギはこの坂を大岩でふさぎ、生者の国と死者の国を分けました。
黄泉の国から帰ったイザナギが、水で体を清める禊をしたときに、左目を洗って生まれました。同じときに右目から月読命、鼻から須佐之男命も生まれ、三柱は「三貴子」と呼ばれます。